私たちは音楽を聴くこと、それ自体を体験しているのではありません。
音楽を聴くという行為を通して、その作者の体験を追体験する可能性に手を伸ばしているのです。
だからジャケット等諸々のアートワークは音と同等に重要な価値を持っています。

ショパン:夜想曲全集

ショパン:夜想曲全集



別件。
夏目漱石の素晴らしい点はやはり自殺しなかった点にあります。
同時代に素晴らしい作家は沢山生まれましたが、苦しみ続けること(生きること、作品を生み出すこと)を選択したことは最も評価に値すると。数々の作家の中でやはりここまで評価されるのは、皆が無意識のうちに彼の生を評価し得ているから。余計なルサンチマンに浸るより、猫を愛し後世のために何かを残し、そして何より学び続けた。

私は彼の作品の中で「我輩は猫である」が最も好きなのです。猫が好きだからではありません。
毎日毎日のくだらなさ、かけがえのなさをさらっと何でもなかったかのように皮肉って語ってしまう点。その言葉を猫に託すことでより軽さを生み出した点。しかし結局は生と死という恒久のテーマをその作品の影に継続的にしっとりと持たせていた点に惹かれる。